まず最初にお伝えしたいのは、今回ご依頼くださったお客様に非があったわけではないということです。
やりとりは終始ご丁寧で、言葉もやさしく、こちらの対応にも真摯に向き合ってくださいました。
メッセージのひとつひとつから、誠実さや思いやりが感じられて、心からありがたく思っています。
私自身も、これまで多くのオーダーで加筆修正を行ってきましたし、ご希望にはできる限り寄り添いたいと思って制作してきました。
ただ、今回のケースは今までにないほど深く考えさせられる経験でした。
ご依頼いただいたのは、わんちゃんのイラスト2枚。
1枚あたりの価格は3,300円。(現在は異なります)
この価格は、イラストのオーダーをもっと気軽に楽しんでいただけたら…という思いから設定していたものでした。
「ちょっと安すぎるのでは…？」とご心配いただくこともあります。
今振り返っても正直この価格はかなり低めだと感じています。
ですがこの金額には、
・私がイラストレーターとして活動を始めたばかりであること
・駆け出しとしてまずは挑戦してみたいという気持ち
が込められていました。
そしてもう一つ、誤解のないようにお伝えしたいのは、「写真のようなリアルな作風ではないから安くしている」わけではないということです。
私の絵柄は、アニメ風で雰囲気を描くタッチで、リアルとは少し違った方向性ですが、作業の手間や想いの込め方には、どの作風も変わりはないと感じています。
私のラフはほんとざっくりで、雰囲気やポージング、イラストの雰囲気でオプションが必要かの有無の確認のために描きます。
今回ラフの修正と線画の作業だけでも1枚あたり5時間以上。
ただ猫を中心に描いてきた私にとって、わんちゃんはまだまだ勉強中の存在です。
それでも時間をかけて丁寧に、心を込めて描かせていただきました。
実は、ラフを描いている段階で
「求めておられるテイストは、私の絵柄とは少し違うかもしれない」と感じていました。
そのことも率直にお伝えし、
「他の作家さんの方がご希望に合うかもしれません」とご案内もしました。
ですが、「しずかさんの絵の雰囲気が好き」と言ってくださったことがとても嬉しくて、そのまま制作を進めることを決めました。
今思えば、もっと丁寧に確認し、少し立ち止まってお話しすべきだったかもしれないと反省しています。
お互いが気持ちよく終われるようにするためには、やはり最初の段階で方向性をしっかりすり合わせることが大切ですね。
色を塗る際にも、何枚も送っていただいたお写真をじっくり見比べながら、柄や色味にできる限り近づけるよう工夫しました。
ご希望の色味が実際の毛色とは少し異なっていたため、「理想に近い色合いになるように」と意識して彩ったつもりです。
ただ、色が完成した段階でお客様からしたら一部分ですが、イラストレーターからしたら「ほぼ全体の塗り直し」のご希望でした。
模様も含めての描き直しになると、また一からの制作となり、ほかのご依頼との兼ね合いや時間的な限界もあって、終わりが見えなくなるかもしれないと感じました。
もちろん、加筆修正は「悪いこと」ではありません。
むしろ、お客様が「うちの子らしさを表現したい」
と感じた点を伝えてくださることは、本当にありがたいことです。
実際、これまでも「ここがもう少しこうだったら…」というお声をいただいて、描き直しや塗り直しを重ねてきました。
私は元インハウスデザイナー（企業専属のデザイナー）でもあったので、修正があるのはごく自然なことだと考えています。
むしろ、「言いにくいのかな？我慢されていないかな？」と心配してしまうくらいです。
だからこそ、今までご依頼くださったお客様にも、これからご依頼を検討されている方にも、
「気になることがあれば、遠慮なく伝えてくださいね」と心からお伝えしたいです。
今回の件で改めて感じたのは、
イラストのオーダーは“作風との相性”がとても大切だということ。
たとえば、(お客様がおっしゃたお言葉ではありません)
「この写真の通りに、線まで忠実に再現してほしい」「模様や毛の流れを完全にそのまま表現してほしい」というご希望をお持ちの方は、
模写（トレース）やリアル寄りのイラストを得意とする作家さんにお願いされるのが、きっとご満足いただける仕上がりになると思います。
特にこだわりの強い方こそ、
その動物や人物の専門のイラストレーターを
選ばれるのがおすすめです。
また、柄や線にこだわりたいけどアニメっぽいのがいい等であれば、リアルテイストの作家さんに「アニメ風にも描けますか？」と事前に相談するのも一つの方法かもしれません。
（その分、作家さん本来の持ち味は抑えられてしまう可能性もありますが…）
私は、ざっくりとした柔らかなタッチで、
空気感や「その子らしさ」を大事にしています。
比較的縞模様などは再現しますが、
写実的ではなく“雰囲気重視”のイラストです。
その点をご理解いただいたうえでご依頼いただけると、
より気持ちのよいやりとりができると感じています。
今回、私の方から2枚分＝6,600円のご返金をお願いすることにしました。
「もう描きたくない」という気持ちでは決してありません。
むしろ、力になれなかった悔しさでいっぱいです。
そして何より、お客様にもたくさんの時間を使わせてしまったことに、心からお詫び申し上げます。
この出来事は、私にとって本当に大切な学びとなりました。
・ラフはラフであることの伝え方
・価格と作業量のバランス
・作風や方向性を事前にしっかり伝える大切さ
・そして、オーダーの満足度を左右する「相性」の重要さ。
この投稿が、これからオーダーを考えている方や、同じように悩む作家さんにこういう考えもあるんだなと思っていただければ幸いです。
私もしっかり振り返り、また前を向いて、おひとりおひとりの「大切なうちの子」を描けるよう、進んでいきたいと思っています。
しずか|イラストレーター
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